企業における生成AIの導入が急速に進んでいる。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の調査では、導入率が1年間で22.6%から44.0%へ上昇した。ただし、使い道は文書作成や情報収集が中心で、顧客向けサービスの高度化には十分に広がっていない。ホールにとって重要なのは、AIを導入するかどうかではなく、店長や管理職が抱える仕事のうち、どこを任せるかを具体的に決めることだ。
生成AI導入率が1年でほぼ倍増
IPAが7月30日に公表した「DX動向2026」によると、生成AIを「導入している」と回答した国内企業の割合は44.0%だった。前年度の22.6%から21.4ポイント上昇し、ほぼ2倍になった。
調査は2026年4月中旬から6月中旬にかけて、日本企業の経営層またはICT関連部門を対象に実施。1799社から有効回答を得た。対象業種には、娯楽業を含むサービス業も含まれている。
AI全体では、導入済みが42.3%、試験利用中が15.7%。合わせて58.0%の企業が、何らかの形でAIを使い始めている。ただし、利用目的を見ると、現状は社内業務の効率化に偏っている。
最も多かったのは「文書・音声の要約・翻訳・校正」の82.5%。次いで「文書・レポートの作成」が80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」が77.0%だった。一方、「自社製品・サービスの高度化」は10.9%、「生産・物流・サービス提供の計画支援」は6.0%にとどまった。
AIを導入し、一定以上の効果があった企業に具体的な成果を尋ねると、「業務が効率化・迅速化した」が91.6%を占めた。これに対して、「顧客満足度が向上した」は4.5%、「売上や利益が向上した」は3.9%だった。導入は広がったが、顧客価値や収益を生む段階まで進んだ企業は、まだ多くない。
ホールでAIに任せられる仕事は何か
ホールの日常業務に置き換えると、AIを活用できる場面は決して少なくない。会議の議事録作成、日報や月次報告の下書き、社内マニュアルの検索、スタッフから寄せられる質問への回答案、外国人客向け案内の翻訳、営業データの整理などだ。いずれも必要な仕事だが、作業そのものが直接、顧客との接点を生むわけではない。AIに任せるべきなのは、店長の判断ではなく、判断材料をつくるまでの作業である。
2025年に本誌がJAPAN AIを取材した際、同社はAIを導入したあるホール法人の事例を紹介している。その法人では、人手不足により日々の業務が優先され、店舗データの分析や社内報告が十分に行えないことが課題だった。そこで、蓄積していた営業データをAIに読み込ませ、曜日や天候、特定日の傾向を分析。翌月の目標設定や施策検討の材料を作成する業務をAIに任せたという。
JAPAN AIによれば、店長の業務時間が短縮されただけでなく、分析できる範囲も広がった。AIが作成したレポートを基に、店舗側が新たな施策を検討する動きにもつながったとしている。
これはAIが店長に代わって営業判断を下した事例ではない。これまで時間が足りず、十分にできなかった分析をAIに補助させ、店長が考える時間を確保した事例だ。
最初に決めるのはツールではない
一方、AIを導入しただけで成果が出るとは限らない。「DX動向2026」では、AI導入・運用上の課題として「専門人材の不足」が50.1%、「生成AIの効果やリスクに関する理解不足」が45.8%、「利用を管理するルールや基準の作成が難しい」が39.7%に上った。
ホールが最初に取り組むべきなのは、高機能なサービスを探すことではない。まず、店長や管理職が毎日、毎週、毎月繰り返している仕事を書き出す。その中から、手順を言葉で説明でき、結果を人が確認できる業務を一つ選ぶ。
例えば、月次報告の作成に毎月何時間かかっているのか。営業データの分析はどの程度の頻度で行えているのか。AI導入前の状態を確認した上で、作業時間、実施回数、修正箇所などを比較すれば、効果も判断しやすい。
人手不足を、採用だけで解消することが難しい時代になっている。AI活用の目的は、人を減らすことではなく、人にしかできない仕事へ時間を戻すことにある。
店長が報告資料の作成に追われる時間を減らし、顧客やスタッフ、営業について考える時間を増やせるか。生成AIの導入率が44.0%まで上昇した今、ホール経営者に問われているのは、「AIを使うか」ではなく、「どの仕事から変えるか」である。
文=アミューズメントジャパン編集部
使用した出典
・独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2026」
・月刊アミューズメントジャパン2025年9月号「AIとの共存で持続的な未来を創造」