【コラム】「カスタム機能」が生んだ功罪─共感なきパチンコの現在地
グリーンべると2025年7月23日
演出を選べる時代。パチンコは本当に面白くなったのでしょうか?
カスタム機能が受け入れられた背景
近年のパチンコにおいて「演出カスタム」はもはや当たり前の機能となりました。先バレや一発告知などを自らON/OFFできる仕組みは、もともと「無駄な演出で時間を取られたくない」というユーザー心理に応える形で登場したものであり、その意味ではヒットした背景は明確です。
メーカー側も、「選ばせることで幅広いプレイヤー層をカバーできる」という合理的な視点から導入を進めてきました。 実際、短時間勝負を好むビジネスマンや、「当たるか当たらないかだけをシンプルに知りたい」という若年層にとって、カスタム機能は大きなストレス軽減になったと思います。また「推しキャラ」のカスタムやプレミア頻度設定など、パーソナライズの文化に馴染んだ現代ユーザーにとって、これらは「自分らしい打ち方」を演出できる魅力的な要素でもあります。
「共感」が生まれにくくなった現在の遊技環境
一方で、この便利さが新たな問題も孕んでいます。最大の懸念は、「共感」の喪失です。パチンコにおける演出の醍醐味は、「あのタイミングであの演出が来て…」という語り合いや、隣の台と一緒に一喜一憂できる共有体験にありました。カスタムが当たり前になった今、同じ機種を打っていても演出の見え方は人それぞれで、同じ瞬間を語ることができなくなっています。「先バレ鳴った?」「いや、俺は先読み切ってるから…」というように、体験が分断されてしまっています。
演出の「設計」から「選択」へのすり替え
さらに、演出の面白さをプレイヤー任せにしてしまう風潮も見過ごせません。かつては「この演出を見せたい」という強い意志がメーカー側にありました。
しかし今は、「好みに合わせてください」という姿勢が強く、まるで「味の最終調整はお客様にお任せします」という飲食店のようです。味に自信があるなら、そのまま出せばよく、それをユーザー任せにするということは、メーカーの演出設計への自信がやや後退しているようにも見えます。
アツさの飽和が招く「鈍感化」
そして、もう一つの問題は「アツすぎる演出の飽和」です。カスタムで告知タイミングや量を調整できるとはいえ、そもそも演出そのものが過度に複雑化しています。
「赤が出ても当たらない」「長い演出のどこで期待すればいいのか分からない」といった声も増え、シンプルな期待感が薄れつつあるのが現状です。演出を重ねれば重ねるほど「アツさ」が鈍感になっていくのは、人の心理として当然です。
これは「チャンスゾーンのチャンスゾーン」という状態が続くスマスロでも見られる傾向ですが、パチンコにおいても「何を信じていいか分からない」という迷子感が、打ち手の熱量を奪っています。
「シンプルで伝わる面白さ」への回帰
カスタム機能自体が悪いのではありません。しかし、プレイヤーに寄り添いすぎた結果、本来の「面白さを設計して提供する」というメーカーの役割が薄れてしまっているとすれば、それは業界全体で見直すべきタイミングなのではないでしょうか。演出の王道とは、やはり「期待感と意外性のバランス」にあります。シンプルながらも納得の演出で高稼働を続ける『海物語』のように、余白を残した演出設計が再び求められる時代に来ているのかもしれません。
そして今、過剰な演出に疲れたプレイヤーたちが、カスタム機能という武器を使い、「あえてシンプルを選ぶ」――そんなユーザーの選択こそ、パチンコ本来の面白さを取り戻す鍵なのではないでしょうか。
◆プロフィール
小島信之(こじまのぶゆき)
トビラアケル代表取締役
2018年まで首都圏、静岡、大阪に展開するホール企業で機種選定を担当。2019年に独立し、その分析力を活かしエンタープライズの全国機種評価等を開発。現在はメーカーの遊技機開発、ホールコンピュータの機能開発など、幅広い分野に携わり、変態的なアイディアを提供している。馬と酒とスワローズをこよなく愛する。