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世界のiGaming市場に挑戦する日本企業 ナツメアタリ アミューズメントジャパン2022年12月28日

カジノ向けスロットマシンを作っている日系メーカーが、スロットマシン用コンテンツのiGaming版を配信しているケースはある。だが、日本のゲームコンテンツ開発会社がiGaming専用に制作したコンテンツが北米市場に配信されるのは初めてのことだ。
取材=田中 剛(本誌)/text & photos by Tsuyoshi Tanaka

ナツメアタリ(大阪市)のiGaming(オンラインカジノ)向けスロットコンテンツ「Lightning Jungle」が9月15日、北米市場での配信が始まった。これが同社のiGaming事業の第一弾であり、日本のゲームコンテンツ開発会社として初の北米iGaming参入だ。 
ホール関係者にとって『ナツメアタリ』という社名は聞き慣れないかもしれないが、遊技機メーカー関係者なら知っているはずだ。1987年から家庭用ゲーム開発を行ってきたナツメ株式会社と、2002年からパチンコ・パチスロの企画開発を行ってきた株式会社アタリが2013年に経営統合して誕生したゲーム開発会社だ。現在は大阪市北区に本社をおき、コンシューマゲームの企画開発、遊技機の企画開発を行っており、これまでに100機種を超える遊技機開発に携わってきた。そして近年、カジノ向けゲーミングコンテンツ開発などの新しい分野へ進出している。

ナツメアタリとして初めてのランドベースカジノ向けスロットマシン開発は6年前で、業界の大手スロットマシンメーカー、Ainsworth Game Technology(以下、Ainsworth)からこれまでに4機種がリリースされている。他のメーカーも含めると開発に携わったスロットマシンは25機種を超え、最新作はAinsworthの「マリリンモンロー(Marilyn Monroe Romantic Kisses & Lovely Hearts)」。同機は2021年10月にラスベガスで開催された展示会「G2E」でお披露目(※)され、GLIの承認を経て2022年10月に販売を開始。2022年末時点でネバダ州、カリフォルニア州のカジノに導入されている。※パチンコ・パチスロ機と異なり、カジノ業界では開発途中の実機を展示できる。

北米iGaming市場は急成長中

ナツメアタリがiGamingのコンテンツ開発に特化することを目的としたスタジオ『Samurai Studio by NatsumeAtari』を設立したのは2020年10月。
小出光宏代表取締役は、「試作段階のiGaming向けスロットのコンテンツ『Lightning Jungle』を、北米iGaming市場で急成長を遂げているリーダー的ゲームプロバイダーのODDSworksにプレゼンしたところ2022年8月に正式な契約に至りました。これまでに我々が多数のランドベースカジノ向けスロットマシンの開発の実績を積み上げてきたことが信頼されたのだと思います」と振り返る。

iGamingは北米においてはその歴史はまだ浅い。スポーツベッティングは31の州と1つの独立行政区で運営されているが、オンラインカジノが合法化され運営されているのはニュージャージ州、ペンシルバニア州、ウェストバージニア州、デラウェア州、ミシガン州、コネティカット州の6州のみ。

Samurai Studioの藤井俊弥プロデューサーは、北米におけるオンラインカジノは、「急拡大しており、なおかつ今後さらに拡大する市場です」と言う。アメリカン・ゲーミング協会(AGA)の統計によると、2021年の北米のiGamingの市場規模(GGR※)は前年より139%も増え37億ドル(134億円)になったが、この9割以上がオンラインスロットだ。※スロットのGGRはパチンコ・パチスロの粗利額に相当する。
藤井プロデューサーは、「近いうちにニューヨーク州でも合法化されるという見方もあります。合法化する州が増えることで、2025年の市場規模は2021年の1.7倍に拡大するという予測もあります」と言う。

 
北米と欧州市場への第一歩
 
iGaming業界の構造はランドベースカジノとも異なるし遊技業界とも異なるので、少し説明が必要だろう。今回の場合、Samurai Studioがスロットコンテンツを企画・開発したが、実際に認証機関に申請したのは、RGS(リモート・ゲーム・サーバー)を持つオンラインゲームプロバイダーと呼ばれる会社だ。これは遊技機の開発会社と遊技機メーカーの関係と近い。
ゲームプロバイダーはRGSプラットフォームプロバーダーを兼ねることが多く、まとめてサプライヤーと呼ばれる。なぜサプライヤー(供給事業者)かというと、彼らがオンラインカジノ・オペレーターに対してゲームを提供するからだ。そして、オンラインカジノ・オペレーターがユーザーを集客して、サプライヤーが配信するゲームを遊んでもらう、という構造だ。

「弊社が提携したODDSworksはサプライヤー大手で、弊社のスロットコンテンツを、北米各州でオンラインカジノ・オペレーターに提供していくわけです。タイトル第1弾の『Lightning Jungle』はODDSworksを通じて、ミシガン州にある北米最大のオンラインカジノ・オペレーターであるBetMGMに配信されていて、今後さらに配信先が拡大されていく予定ですし、他の州でも配信されていく予定です」(藤井プロデューサー)

ナツメアタリは2022年9月28日に、別のコンテンツ・サプライヤー、Swintt Sudios(スウィント社/本社:マルタ)とも正式契約を締結している。同社は欧州市場に強い、急成長中のサプライヤーで、2023年春頃にはSamurai Studioのスロットコンテンツが欧州市場のオンラインカジノ・オペレーターにも配信が開始される見込みだ。

「我々は日本でパチンコやパチスロの開発をやってきて、その経験をもとにカジノ向けスロットマシンの開発に取り組めば、きっと面白いものが作れるだろうと思っています。ただし、ことさらに和をモチーフにしたり、パチンコやパチスロらしさというものを押し出そうということではありません。それはあまりにニッチ過ぎてしまい市場性がないのが現実です。狙うマーケットを北米に設定したら、あくまでも北米で支持されるゲーム性を研究します。欧州市場なら欧州市場を研究した上でゲームコンテンツを企画しています」(小出代表)

Swintt Sudiosのデヴィッド・マンCEOは、「当社はSamurai Studioが制作したオンラインカジノゲームを、必要とされるすべての市場に届くよう、我々の流通ネットワークを活用します。それにより、彼らは最先端のオンラインカジノゲーム開発に専念することが可能になります」と述べている。

日本の開発会社とともにコンテンツを発信したい

小出代表は、「ナツメアタリは開発会社として、ようやく北米とヨーロッパ市場にゲームを供給するルートが正式にできたという段階です」と言うが、その先のビジョンも描いている。
「コンテンツ開発会社としてさらに地位を高めていくわけですが、その次、つまり将来的には当社でRGS(リモート・ゲーム・サーバー)を持ちコンテンツ・サプライヤー(ゲームプロバイダー)としてのライセンスを取り、さまざまなオンラインカジノ・オペレーターに直接ゲームを供給できる立場になることを目指したい」と小出代表は言う。

RGSを持って配信態勢を作るだけでなく、ライセンスを取るために企業の適格性審査に合格する必要もある。北米ではiGamingのライセンスは州ごとに取得する必要があり、それにあたり支社もRSGも州ごとに設置しなければならない。
現状はサプライヤー(ゲームプロバイダーおよびRGSプラットフォーム)に配信を依存しているため、配信開始のタイミングも開発会社の都合では決められない部分がある。サプライヤーになれば自分たちのペースで開発できる。その一方で、より多くのさまざまなタイプのコンテンツを揃えなければならない。

「サプライヤーになれば、当社だけでは開発は追いつかない。しかし日本にはパチンコ・パチスロ開発を含め素晴らしいゲームコンテンツを開発してきた会社がたくさんあるので、そういった日本の開発会社にも参加していただきたい。当社がiGaming向けのゲーム開発のサポートや申請をできますから、当社を通じて北米のオンラインカジノ・オペレーターに日本発のコンテンツを提供していく。2025年か2026年までにはそんな環境を作りたいですね。
iGamingは北米に限らず、世界規模で今後も拡大していく市場です。そして日本に統合型リゾート(IR)が開業した後には、日本でもiGamingが合法化されている可能性もあります。それまでの間に世界で実績を重ね、日本のランドベースカジノ向けスロット開発、日本向けiGaming開発のチャンスも視野に入れています」(小出代表)

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