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特別寄稿IRについて多面的な観点で議論を深めることの重要性 グリーンべると2023年6月22日

特定複合観光施設区域整備法の建付け

我が国では2016年に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(通称:IR推進法)」が成立し、その推進法の基、2018年に「特定複合観光施設区域整備法(通称:IR整備法)」が成立しました。そして、本年度4月14日に、大阪府及び大阪IR株式会社から認定申請のあった特定複合観光施設区域整備計画について、国土交通大臣が条件付きで特定複合観光施設区域整備法第9条第11項の規定に基づき認定しました。

IR整備法自体を語られることはそう多くはありませんが、同法の第一章第四条(地方公共団体の責務)には次のように明記されています。
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「地方公共団体が実施すべき施策として、その地方公共団体の区域の実情に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」──。
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つまり、法律でありながら国が何か細かく定めているわけではないのです。地方の現況インフラを含む都市整備状況や文化、歴史、或いは住民意向を包括的に考慮して、それに応じた都市整備計画、区域内の開発計画、観光政策や送客計画、そして住民合意形成に至るまでを地方自治体が決めて、それを国が審査するという建付けです。一定の国民は与党が強行採決でカジノを含む全ての物事を可決させた、という心象があることが予想されますが、細かな施策を決めていくのは国ではなく地方自治体であり、同時にその地方の住民や団体なのです。マスコミの極端な報道の仕方にも起因しますが、未だにこの点を多くの国民は誤解しているかもしれません。

二元論的に議論されるIR

国内においてIRの根源となるような議論が最初に国会で行われたのは、戦後間もない1949年(昭和24年)に行われた「第6回国会衆議院観光事業振興方策樹立特別委員会第10号」であったことはあまり知られていません。大分県出身である当時の国会議員、故・福田義東(ふくだよしはる)氏が、別府市における国観法(※)に伴う議論で、同国会において次のように発言しています。
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「特別都市の計画におきましては、観光遊覧設備、それから土地の区画整理、街路事業、いわゆる緑地地帯の設定あるいは運動場、上下水道の拡張、河川の改修であるとか砂防の普及ということが都市計画については内容をなすものであります。さらに設備につきましては、世界の別府である点にかんがみまして、ヨット・ハーバーを設ける、あるいは飛行場の発着場、さらに内部に入りましては、外客誘致にふさわしいゴルフ・リンク、ドライブ・ウェーを設けることもいいでしょうし、運動場を拡張する、あるいは新たに設ける、あるいはカジノを設置する、こういうこともその内容としては、ぜひこの法案に付属して考えるべき事柄であろうと存ずるわけでございます」──。
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ここには観光振興に関する事柄だけでなく、都市計画(インフラや送客含む)についても言及されており、1980年代のラスベガスの都市再開発の起源的な観点や、2000年初頭のシンガポールのリー・シェンロン首相のIRにおける声明に表れてくるような内容が、70年以上も前の日本の国会で議論されていたのです。

一方で、現在の日本でのIRにおける議論、或いはマスコミの報道では、社会的デメリット(依存症、治安悪化、青少年への悪影響等)と経済的メリット(雇用増加、経済振興等)の二元論に終始しています。これは、どこまで議論しても決して交わることがないのは言うまでもなく、同時に国民を二分化してしまう危険性もあります。前述した70年前の日本で議論されていたように、観光振興に寄与する送客システムはどうあるべきか、或いはそれに伴ったインフラを含めた都市計画はどうあるべきかなど、異なる視点・基点を加えて多面的に議論、報道していくことで、国民全体がより活発で発展的な日本固有のIRを考える一助となるでしょう。

大阪IR完成イメージ(引用:MGMリゾーツ・インターナショナル、オリックス)建築家・作家 鶴田 一HAJIME TSURUTA◎株式会社NRC一級建築士事務所 代表取締役社長オレゴン大学建築学部卒業後、大手ゼネコン設計部にて経験を積む。2008年にNRC一級建築士事務所開設。2016年より国立東京工業大学にて都市計画、観光政策の研究に従事。国内外建築賞、芸術賞多数受賞。執筆活動、創作活動も行い、勢力的に活動の範囲を広げている。関連著書◎『シンガポールにおけるカジノ合法化検討過程に関する研究』(公益社団法人日本都市計画学会)2017年10月、『わが国におけるカジノ及びIRをめぐる言説・事象の変遷』(一般社団法人日本観光研究学会)2021年12月、『IR整備をめぐる候補自治体における議論に関する研究』(一般社団法人日本観光研究学会)2022年12月

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