chatGPTの衝撃 ~あなたはAIを活用するか? AIに仕事を奪われるか?
アミューズメントジャパン2023年2月17日
人工知能の研究機関OpenAIが開発した、最先端の自然言語処理モデル「ChatGPT」がいま注目を集めている。人間のような文章をリアルタイムで生成できることから、チャットボット、コンテンツ生成、言語翻訳などのタスクに有用なツールとなり得る。だが、ChatGPTが生成する文章の人間らしさにとどまらず、その内容にも驚かされる。文=田中剛 text by Tsuyoshi tanaka
様々な質問を投げかけた筆者の個人的な感想は、ときにバグのような回答もあるものの、「薄いかもしれないが広範な知見を備えた常識的な大人」という印象だ。回答の誤りや矛盾を指摘すると、誤るとともに見解を修正することもある。ChatGPTの回答(見解)にこちらが異を唱えると、「たしかにそういう面はある」と見解を修正しつつ、「その一方で、~」と前言を踏襲した見解を再度述べることもある。
以下に、実際のやり取りを紹介しよう。
〔事例1〕
筆者 パチンコやパチスロを遊ぶ人が1990年代半ばをピークに、以降は減少を続けている。プレイヤーが「以前よりも勝ちにくくなった」と感じていることが、一因ではないのか?
ChatGPT はい、「以前よりも勝ちにくくなった」という感覚は、パチンコ・パチスロのプレイヤー数の減少に関連している可能性があります。ゲームマシンはより高度なアルゴリズムを採用し、プレイヤーに勝つことが難しくなっていることもあります。
また、経済状況の悪化や、他のエンターテイメントの多様化などが影響している場合もあります。
〔事例2〕
筆者 日本においてパチンコ産業は成長産業と言えるか?
ChatGPT 日本においてパチンコ産業は、成長産業とは言い難いでしょう。実際には、最近ではパチンコ産業の売上が減少しており、産業全体としての規模も縮小しています。
このような状況は、様々な要因によるものと考えられます。例えば、若年層のパチンコ離れや、規制強化などが影響しているとされています。また、インターネットなどのオンラインゲームの普及によって、若い世代の娯楽の嗜好が変化していることも一因として挙げられます。
ただし、パチンコ産業自体は、長い歴史を持ち、多くのファンがいます。また、産業全体としては依然として巨大な規模を持っており、多くの雇用を生み出しています。そのため、日本においてパチンコ産業は、成長産業とは言い難いものの、重要な産業の一つであると言えます。
上に記した例は一問一答だが、実際には、チャットで同じテーマについてやり取りを続けられる。そこで気づくのが、ChatGPT の主な特徴のひとつである、「文脈を取り込み、一貫性を保ちながら応答する能力」だ。これにより、文法的に正しいだけでなく、会話の文脈を理解し、先の応答のトーンやスタイルと一貫性のある応答を生成する。
ホール業界向けにWeb広告運用支援をするCFYの梶川弘徳代表は、「分野によっては人間以上の知能レベル」と評する。
梶川代表はchatGPTに、「パチンコ店の新台入替で北斗の拳が導入される。その訴求をGoogle検索広告を使って行いたい。良い広告文はどのようなものか?」と質問を投げかけ、その具体的な提案に驚いたという。
chatGPTは、広告文を効果的にするためには、下記のような要素を含めることが望ましいと押さえるべき4つのポイント(下記)を挙げた上で、例文を提案をした。
- 1. 北斗の拳のユニークな特徴や魅力を紹介する。
- 2. パチンコ店の新台導入による、新しい楽しみ方や高額賞金のチャンスをアピールする。
- 3. 店舗の位置やアクセス方法を明示し、近隣の方々にも広告を届ける。
- 4. 店舗のオリジナルプロモーションや特別イベント情報を提供し、顧客の動機づけを高める。
遊技業界関係者ならわかるように、chatGPTが提示したポイントには広告宣伝の規制上、訴求できないことがあり、例文には「高額賞金を狙えます」の表現が入っていた。
梶川代表がそのことを指摘し、再度、広告文案を求めると、「それでは、それらを除いた上での新しい広告文例を提供いたします」と新たに2案を作成した。それが下記だ。
- 「千葉県柏市に新たにオープンしたパチンコ店「XXX」で、北斗の拳の新台が導入されました! この人気機種のユニークなゲーム性を体験しに、是非お越しください。アクセスも良好で、近隣地域の方々にもお越しいただけます。」
- 「熱い戦いを楽しむなら、千葉県柏市に新たにオープンしたパチンコ店「XXX」で北斗の拳の新台をプレイ! 最新のゲーム機能とグラフィックを楽しむことができます。店舗はアクセスも良好で、近隣地域の方々にもお越しいただけます。」
遊技業界に関する知見、経験不足感は否めず、活用には人間による添削、補正が必要だ。だが、現時点でここまでできるなら、この業界のことを学習すれば1年後には飛躍的な進歩を遂げているはずだ。
梶川代表は、「パチンコホールにおける顧客向けサービスでの実用化は、遊技場という特性上まだ先になりそう」としながら、「社内での知見提供という部分では、アイデアが欲しいというニーズに対して実用化のレベルにあると思う。分野によってはコンサルタントが不要になるかもしれない」と言う。
マーケティングコンサルタントの堀川和映氏(第二営業部 顧問)も、「まだ遊技業界についての学習が足りてないため、残念ながら十分な内容とはならない。しかし世間一般的な定型フレーズということであれば、ゼロから文章を起こす必要がなく、多少手を加えればホール企業内の業務にも使えるレベルにある。例えば、クレーム内容に応じた、対応文章のベース作成などは効率的だろう」と評価する。
ホール業界に詳しい人事コンサルタントの堀田達哉氏(ディスカバリーCSパートナーズ 代表取締役)は、「ごく近いうちに、業界のことや自社のことを学習させて、お客様からの質問に応答させることができるようになるだろう。また、このようなAIに社内に蓄積された文書を学習させれば、『業界暗黙知』を『形式知』に変えられ、社員が活用できるようになると予感する」と言う。
「現状でも、『お客様が店舗内で倒れた。どうする?』というレベルの質問であれば、非常に明快な取るべき対応を数十秒で返答した。つまり、分野によってはすでに実用レベルにある」(堀田代表)
筆者が驚いたのは、アンケート調査の集計結果をもとにコメントを返したことだ。chatGPTは人間の会話のような自然言語を処理する。表組をどの程度理解できるのかと思い、chatGPTに、スプレッドシートを読み込めるかを尋ねてみた。すると、「スプレッドシートのデータをテキストファイルやCSVファイルなどの形式にエクスポートし、それを処理することはできます」とのことだった。
試しに図のようにカンマ区切りのテキストを与えてみた。その結果のコメントが下記だ。
ChatGPT データを見る限り、パチンコやパチスロを遊ばない人のほうが、低所得者が多いと言えます。個人年収200万円未満の人が最も多く、その割合は40.20%である一方、個人年収800万円以上の人は4.90%にとどまっています。
一方、パチンコやパチスロを遊ぶ人は、中所得者層が最も多く、個人年収400~600万円未満が22.4%、次いで個人年収200~400万円未満が27.4%であることが分かります。
この回答に対して、「なぜ、パチンコやパチスロを遊ぶ人の方が、パチンコ・パチスロを遊ばない人よりも所得が高いのだろうか?」と見解を求めたところ、chatGPTは2つの仮説を提示した。
ChatGPT その理由については、はっきりとしたデータや研究が存在しないため、一概には言えません。ただし、一部の研究では、パチンコやパチスロを遊ぶ人は、遊ばない人に比べて、ギャンブルに対するリスクを受け入れる傾向があることが示唆されており、このリスクを取ることによって成功する可能性もある一方で失敗するリスクもあるということが考えられます。
また、パチンコやパチスロを遊ぶこと自体が、一定の収入を得ていることを前提とした余暇の過ごし方であることも一因かもしれません。ただし、これらはあくまで仮説であり、より深く掘り下げた研究が必要とされます。
個人的には、「ただし、これらはあくまで仮説であり、より深く掘り下げた研究が必要とされます。」と言い添える点に好感が持てる。これが冒頭に書いたように、「常識的な大人」と感じる理由でもある。
AIゆえ膨大な知識を有し、なおかつ学習をやめない。現状これだけのことができるのだから、数カ月後には驚くべき進歩をしているだろう。
見方を変えて、「現状の業務のやり方を、AIにとって扱いやすいよう変更する」とすれば、すぐに実用化できる業務領域があるはずだ。
アリババグループやアントングループを創業した中国の実業家ジャック・マー氏が、講演でこんな話をしていた。
昔、バスケットボールのゴールは籠だった。
ボールが籠の中に入ると、そのボールを取る役目の人がいた。
都度、梯子を掛けて、籠の中からボールを取り出していた。
ある人が、「バスケット(籠)の底に穴をあければ、取り出すのを待たなくていいではないか」と提案した。
名案のように思われたが、反対者がいた。
「オレの仕事がなくなるではないか」
業務へのAI導入でなくなる仕事もあるだろう。
だが、『梯子を掛ける役目』にこだわって、AIの活用で業務を効率化し新たな価値を生み出すことをためらっていれば、ライバルに差をつけられるだけだ。