業界団体は、なにを目標とするのか(KPIとKGI)
遊技通信2023年2月20日
1月20日の警察庁松下保安課長による講話原稿を読み、はたと気付いたことがある。
最後の締めの部分に、「ぱちんこ営業の健全化」および「時代の変化に即したぱちんこ営業のあるべき姿」という文言が出てくる。遊技場経営企業が、というよりも、遊技業界が取り組むべき課題になると思われるのだが、『なにをもって、ぱちんこ営業が健全化したのか』および『どんな姿になれば、ぱちんこ営業が時代の変化に即したのか』を、きちんと提示できる業界関係者(業界団体)はいるのだろうか。
例えば「健全化」という面では、反社会的組織、脱税、遊技くぎの取扱い、賞品流通などがキーワードとして出てくる。前者の2つは絶無しかないわけだが、後者の2つは絶無ではなく、なんらかの目標が設定されてしかるべきになるだろう。「あるべき姿」も同様であるわけだが、残念ながら見聞きしたことがない。見聞きしない原因をさらに探ってみると、遊技場営業に対する想い、遊技場営業はどうあるべきかといったイメージが一致していないことに至るのではないかと思う。
そこで提示したいのは、KGIとKPIという2つの指標である。この2つはビジネスを進めるうえでの目標達成を図る指標であり、適切に設定することで関係者が一致してゴールに向かっていけるようになる。
KGIはKey Goal Indicatorの略であり、日本語では「重要目標達成指標」などと訳される。一方のKPIはKey Performance Indicatorの略で、「重要業績評価指標」などと訳される。2つの関係を示すと、現在から目標に向けてプロセスがあるとすれば、「最終的な目標指標」がKGIであり、「プロセスごとの目標指標」がKPIとなる。複数のKPIを達成することで、KGIが達成されるという関係だ。ビジネスの世界では、KGIは売上高や利益率などが設定され、KGIを達成するためのKPIとして顧客数や販売個数などが設定されることになる。
では、「ぱちんこ営業の健全化」と「時代の変化に即したぱちんこ営業のあるべき姿」を考えてみると、なにがKGIとなるのかを設定する必要がある。単純に考えると、KGIは市場規模や売上高営業利益率かもしれないし、あるいは換金される金額(特殊景品に交換される金額)もあるかもしれない。その目標に向けたプロセスとして、顧客数や頻度、時間などが考えられる。
「健全化」や「あるべき姿」を雰囲気や空気で読めと言われても、それは無理な話だ。業界団体トップが最終目的地を適切に設定しないと、それに従う者はどのようなことに取り組んでいいのか分からない。KGIの設定次第では、KPIに法令改正や業法制定が入ってくるかもしれない。
広告宣伝についても同様だ。全国統一的な運用がなされるようになったのはよいことだとは考えるが、なにを目標としているのだろうか。資金力があり、都道府県を越えて店舗展開を志向する企業にプラスとなるように見える。遊技場経営企業の皆様が、そうした方向性でいいというのであれば口を挟むことではないのだが…
遊技業界という船をどこに向かわせるのか、先行きが見えない時代における業界団体トップの責任は重い。
筆者紹介:伊藤實啓(いとう みつひろ)
株式会社遊技通信社代表取締役。1970年生、東京都出身。北海道大学大学院修了後、財団法人余暇開発センター(現、公益財団法人日本生産性本部)にて「レジャー白書」の編集およびギャンブル型レジャー産業の調査研究に携わる。祖父・伊藤重雄が創刊した、遊技業界で最も古い業界専門誌「遊技通信」を発行する株式会社遊技通信社に入社。編集部勤務を経て、父・伊藤登志夫の急死に伴い2002年から代表取締役に就任し、一般社団法人余暇環境整備推進協議会の監事としても活動中。業界団体や企業でのセミナー講師などを請け負う傍ら、企業経営にかかる専門的スキルをさらに磨くべく、法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修士課程(MBA)を修了。中小企業診断士および認定経営革新等支援機関を取得し、地方自治体での窓口業務等を通じて、業界内外問わず企業経営者からの各種相談に応えている。2020年から法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科特任講師及び、2021年から国士舘大学経営学部非常勤講師も務める。